「鉄は熱いうちに打て」という、ことわざがあります。このことわざは、人と鉄の関係性がどれだけ深いかを表しています。炉の中で熱された鉄の塊は、鉄床(かなとこ)の上で金槌に打たれることによってどんどんと形が変わっていきます。刀工ともなれば、小さな金槌だけで鉄の形を自由自在に変化させることができます。

「鉄は熱いうちに打て」とは、一度冷えてしまえば堅くなり、どうすることもできなくなるという意味です。このことわざから、鉄は堅いというイメージを持つ人が多いと思います。しかし、日本刀の鉄は堅くないのです。特に名刀と呼ばれる日本刀になれば、柔らかいと感じこともありとても不思議です。その証拠に日本刀の表面は紙や絹でも疵がつくことがあります。また一度ついた疵は、砥石によって研がなければ消えないことがほとんどです。そのため、一本の日本刀を疵つけず、長年手入れをすることは大変難しい事です。

鉄が柔らかいとは、一体どういうことなのでしょうか。世の中には、冶金学という鉱石から金属を取り出し、精製する技術を研究する学問があります。その冶金学的に考えると、まず鉄と炭素とが化合して鋼となります。そのときの炭素の含有量が基準よりも多ければ堅くなり、少なければ柔らかくなります。その炭素の含有量を変えることによって、包丁鉄と呼ばれるとても柔らかい鉄や釜・鍋を作る堅い鋳鉄などに分けられます。そのなかでは日本刀に用いられる鉄は、柔らかい方に分類されることが多いです。

鋼が柔らかいというのは矛盾しているように感じますが、日本刀のように物を切るために作られるときは、その柔らかさが重要なのです。さまざまな物には、硬い場所と軟らかい場所が入り混じって存在します。その硬軟を難なく切るためには、柔らかくないと自在に切れないのだそうです。