反権威的で華美な振舞を美学とした「ばさら大名」で、奇人として知られる佐々木道誉の侃万が「道巻二文字」である。一文字派は備前の国で活躍した刀匠の 一派 で、茎に刻まれた「 一」の 文字がその特徴となっている。後鳥羽上自主の御番鍛冶を務めた名匠の一門である。このことから後に皇室の象徴である菊紋を彫り込んだ「菊一文字」の存在が語られるようになったが、実際に菊を彫り込んだ 一文字が存在したという記録はなく後世の創作のようだ。佐々木道誉は北条家の家臣だったが、後醍醐天皇 (北朝)が倒幕運動 をした際に加担し、足利氏について北条氏を裏切 った 。その後も時勢を通す目と政治的手腕で権力を伸ばし続け、 ついには六ヶ国の守護を兼任するに至った。したたかに権力闘争を生き抜いた道誉は享年七十八歳 という大往生を遂げている。 一文字の万はその後、尾張徳川家に伝わり、 さらに備前池田家、森岡南部家を経て明治天皇に献上された。